電線・ケーブルの最適導体サイズ設計(ECSO)
ECSO設計について
ECSO設計の考え方、効果
ECSO設計プログラムと技術資料(取扱説明書)
ECSO設計 Q&A
ECSO設計の紹介(規格、記事等)
ECSO設計について
ECSOとは何か?
電線の導体サイズは安全上(許容電流と電圧降下)の規定を満たす範囲内で、イニシャルコストを最小にする観点から、より細いサイズが選定されている。これに対し、最適導体サイズ(ECSO)は、ライフサイクルコストを最小にする観点から、最適なサイズ(より太いサイズ)を選定するものである。このサイズ設計を「ECSO設計」と言い、そのサイズ選定基準が「環境配慮電流表」である。
(注)ECSO:Enviromental & Economical Conductor Size Optimization
写真 は38mm2→100mm2のサイズアップ例
(導体断面積2.6倍、ケーブル外径1.5倍)
ECSO設計とは
- ECSO設計は,通常の配線設計において選定する導体サイズよりも1~2サイズ太い電線サイズを敢えて選定し,主に導体抵抗損による電力損失の低減効果を通じて投資回収を図る手法である。
- 同時にCO2削減効果があり,わが国の脱炭素化施策 を後押しする手法である。
- 太陽光モジュールの変換効率は、現状の19~20%程度がほぼ頭打ちとなっている中で、発電効率を向上させることができる。
- ECSO設計は、太陽光発電効率を上げるのと同等の効果がある。
導体サイズを適正化する(ECSO設計適用)により、電力損失率が約2%改善する。
なぜ電力損失が生じるのか
・導体(電線)内の自由電子が電圧によって加速し、陽イオン と衝突・振動して熱を発生する。
・発生熱(ジュール熱)は、電流(I)の二乗・抵抗(R)に比例するため、電力損失となる。
電線を太くすることで、抵抗(R)が低下して熱発生は減少する。太線化のコストは、損失減少で投資回収できる。
ECSOの3つの効果
イニシャルコスト ( 初期投資コスト)と ランニングコスト ( 通電時コスト)との和であるライフサイクルコストが最低になるような導体サイズを選定する。
太陽光発電設備は、25~30年間稼働できるが、ECSO設計の投資回収は10年程度以内で可能である。
ECSO設計(適切な太線化)によって、3つの効果が得られ、これらの効果によって、10年程度以内には投資回収が可能である。
- CO2削減効果
二酸化炭素排出量2%削減できます。
前述のとおり、電力損失が減少した分、発電する量も少なくて済みます。その分の二酸化炭素排出量も削減できるのです。
さて、日本全国に布設されている低圧CVTケーブルを全てECSO設計によるケーブルサイズに置換た場合、二酸化炭素の削減量は日本の総排出量の0.9%に相当すると考えられています。カーボンニュートラルへも貢献できると思いませんか?
- ピークカット効果
ピークカット効果が2%減少します。
電力ピーク時間帯の発電所の負担が軽減されます。次の契約更新以降の電力料金低減にも期待ができます。
- 電力損失低減効果
2%の電力損失改善による省エネ効果があります。
前述のとおり、ケーブルサイズを大きくすることで発熱量が小さくなりますのでその分電力損失が改善され省エネ効果となります。
カーボンニュートラルと ECSO設計
カーボンニュートラル
2020年10月26日、第203臨時国会において、(当時の)菅総理より、「2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す」ことが宣言されました。そして、この2050年カーボンニュートラルに向けては、徹底した省エネに加え、再エネ電気や水素等の非化石エネルギーの導入拡大の両輪で取組みを進める必要があります。(下図参照)
※ CCS:Direct Air Carbon Capture and Storage 二酸化炭素の回収、貯留
需要側のカーボンニュートラルに向けたイメージと取組の方向性
出典:資源エネルギー庁
銅のリサイクルと「電線・ケーブルの最適導体サイズ(ECSO)設計」
銅は有価金属で、電線として使用されても、重量が変わらず、品質が劣化することはないため、リサイクルが積極的に行われています。具体的には、使用された後の廃電線は、剥線機にかけられ、銅と被覆に分けられます。そして銅は、純度の高い「1号銅線(ピカ線、光線)」となり、電線メーカーに納品され、その後、溶解されて、再度電線に生まれ変わります。
この電線のライフサイクルの中で、温室効果ガス(CO2)の排出量は、電線の製造時、リサイクル時等に比べ、通電時の通電ロスが最も大きく、導体をサイズアップした方が、電線のライフサイクルのCO2発生量(省エネでもある)、経済性(通電ロスの削減)に優れています。
そして、銅がリサイクルされることを考慮すると、導体をサイズアップしても、銅を回収して、再利用できるため、CO2の発生量の削減に加え、経済性の観点からも、導体のサイズアップは有効です。
CO2の発生量の削減に関しましては、需要家構内の各負荷につながる低圧CVTケーブル(工場内多量使用)で4%の電力損失(ジュール損)が生じており、このケーブルの導体サイズ(断面積)を約2倍にアップすることにより、電力損失は約1/2になり4%から2%に低減します。すなわち、これは2%の省エネとなり、その分、無駄な電力を発電しなくて済むので、発電時CO2排出量が2%削減できることとなります。
このライフサイクルコストを最小にし、CO2発生量の削減等の環境に配慮する観点から最適な導体サイズ(より太い導体サイズ)を選定する設計をECSO設計と言います。日本に敷設されている低圧CVTケーブルの導体サイズを全てECSOサイズに置き換えた場合、そのCO2削減量は日本の総排出量の0.9%に相当します。
1号銅線(ピカ線、光線)
写真提供:ウスイ金属株式会社
電線・ケーブルのリサイクル
出典:住友電気工業株式会社ホームページ
ECSO設計の考え方、効果
物流線センターの実例での説明
ECSO電流表
ECSO設計プログラムと技術資料(取扱説明書)
ECSO設計プログラム
更新したソフトウェアの特長は以下の通りです。
1)案件全体のケーブルをまとめて計算(最大50本)することができるため、案件毎に経済的効果を試算することができます。
2)対話方式のユーザインターフェースを取り入れました。
3)増加投資額回収年数が想定を超える場合、一部のケーブルを対象から外して、容易に再計算ができるようにしました。
ECSO設計 Q&A
Q1 なぜ低圧CVTケーブルのみ対象とするのか?
Q2 低圧CVTケーブルはどれだけ使われているのか?
Q3 オームの法則通りとのことだが、本当なのか?
Q4 低高・中・低稼働にはどんな施設があるのか?
Q5 新設ケーブルでなく既設ケーブルにも適用できるのか?
Q6 もっと詳しく知りたいので参考資料を紹介して欲しい!
Q7 太陽光発電の逆潮流について
Q8 導体サイズUPについて
Q9 アルミケ-ブルのECSO設計について
Q10 ライフサイクルコストについて
Q1 なぜ低圧CVTケーブルのみ対象とするのか?
日本における通電ロスの実態
布設銅量 (布設亘長) |
稼働率 |
実効通電 銅量 |
通電ロス(率) | サイズアップ適用の効果 | |
1)送配電ケーブル (電力会社) |
120万トン(アルミは銅換算) |
100% [常時通電] |
120万トン | 5% |
適用困難 (鉄塔や電柱の強度の問題。さらに、管路の径が問題。) |
2)低圧CVTケーブル(ビル・工場) |
350万トン |
30% 12時間/日 |
100万トン | 4% | 適用すれば効果大 |
3)VVFケーブル (住宅) |
150万トン |
20% 9時間/日 |
25万トン | 1% | 適用しても効果小 |
前提(Ⅰ): 通電電流密度は1)~3)とも、許容電流の半分くらいで同じとした。
前提(Ⅱ): 電力会社・送配電ロスは 5% (2000~2012年実績) とした。
〈導体サイズ適正化は 低圧CVTケーブル(ビル・工場) を対象とする〉
Q2 低圧CVTケーブルはどれだけ使われているのか?
(JCMA過去30年間のケーブル出荷統計より推定)
Q3 オームの法則通りとのことだが、本当なのか?
- 100□ケーブル(50m)と 38□ケーブル(50m)を直列に接続し、その前後と間とに電力量計 A,B,C を入れた回路を用意し、それを工場の負荷(空調設備)の既設ケーブル(38□、100m)に取替えて挿入した。
- 通常の操業運転により、1ヶ月間負荷電流を流し続けた後、A,B,C の積算電力量〔kWh〕を測定した。
- (B-C)と(A-B)の値がケーブルで生じる通電ロス量〔kWh〕であり、結果は、38□は60〔kWh〕、100□は24〔kWh〕となった。
〈理論通りを立証〉
サイズアップ(38□→100□)により、通電ロスは大幅に低減し、低減倍率(60kWh/24kWh = 2.5倍)は、導体断面積アップ倍率(100mm2/38mm2= 2.6倍) にほぼ一致。
Q4 高・中・低稼働にはどんな施設があるのか?
- 8つの施設別に日負荷パターンの調査を実施。(合計n=56)
- 一般工場・・・・中稼働
- プラント工場・・・・高稼働
- 事務所ビル・・・・低稼働
- スーパー・百貨店・・・・中稼働
- 病院・・・・高稼働
- 大学・研究所・・・・低稼働
- ホテル・旅館・・・・低稼働
- その他公共施設等・・・・低稼働
- 各グラフの右上部に、1日あたりの等 価通電時間数 h と年間稼働日数 yを示す。
Q5 新設ケーブルでなく既設ケーブルにも適用できるのか?
ダブル配線化の実施例
(三相それぞれに2本づつ配線し、端子の両端に接続している)
(1) 新設ケーブル ・・・・・ ECSO設計を奨める。
(2) 既設ケーブル ・・・・・ ダブル配線化を奨める。
「ダブル配線化とは?」
既設ケーブル(ラックなど付帯設備も含め)はそのまま残し、同一サイズ、同一長さのケーブルを新たに追加並列配線し断面積2倍化を図る方法は、現実的な工法であり、工事のやり易さのほか、ケーブルの撤去が不要、かつ既設ケーブルとの密着布設が可能なこと、盤や遮断器はそのまま使用し、端子部分もダブル接続することで、最小限の手間とコストでサイズアップが可能となる。
Q6 もっと詳しく知りたいので参考資料を紹介して欲しい!
- 大手電線工場内電力ケーブル8本中6本にECSO適用:2.6%省エネを達成!
月刊「電気と工事」2013年12月号 「経済性と環境を考慮した電線の導体サイズ適正化、JCS規格の制定」 - 大手電線工場内電力ケーブルにダブル配線化工事を実施:通電ロス半減を達成!
月刊「電気と工事」2013年5月号、「事例で比較するダブル配線化工事の実際」 - 大手金属加工工場内電力ケーブルに400V化とECSO適用:3%省エネを達成!
月刊「電設技術」令和2年6月号、「工場内電力ケーブルの400V化と電線太径化で省エネ3%を達成(電線で生じる電力損失を4%→1%に低減)」 - 4. メガソーラ発電所(8MW)構内配線にECSO適用:2%売電増を達成!
月刊「電気と工事」2017年6月号、「メガソーラー発電所構内配線へのECSO適用
事例(構内配線で生じる電力損失を3%→1%に低減)」 - 5.PV自家消費施設(物流倉庫の屋根にPV配置)へのECSO適用:電力損失1.2%削減!
月刊「電気と工事」2024年1月号、「PV自家消費施設(物流倉庫の屋根に配置したPV施設)へのECSO適用」
Q7 太陽光発電の逆潮流について
太陽光の自家消費システムでは、余剰電力分の逆潮流を認めない事例が多いが、現状の計算では買い取りが、前提となっている。
買い取りができない場合は、蓄電池等による充電を行い自家消費する方法もある。
Q8 導体サイズUPについて
設計者側からすると、 5.5SQ を 38SQ にサイズUP するとこんなに大きく して良いのかと疑問に思うこともある。
個別にみると、導体サイズは 4 ランク上になるので、そのような印象を持つが、ECSO設計で計算すると正しい結果となる。
ケーブル長が短いと効果は小さいが、一般的に ECSO 設計はケーブル長が長く なると効果が大きくなる。
Q9 アルミケ-ブルのECSO設計について
コスト低減の観点からアルミケーブルを使用してはどうかという意見もあるようだが。
アルミケーブル自体が、まだJIS化されていないため、アルミケーブルでのECSO設計の計算はしていない。アルミケーブルでの需要、要望が大きければ、検討はしていく。
Q10 ライフサイクルコストについて
銅価格が上昇するとケーブル代は上がりイニシャルコストが上昇する。
トータルコスト的にはそんなに期待した程のメリットがないのでは。
資源価格が上昇すると、電力料金もが上がってくる。抵抗損による省エネ効果は高くなりランニングコストは低下する。ライフサイクルコストで見れば効果はある。
ECSO設計の紹介(規格、記事等)
導入実績(年月毎)
ECSO導入効果を検討した施設の概要
松井建設株式会社は,東部ネットワーク株式会社が所有する東部滋賀物流センターの屋根を借り受け,オンサイト型PPAモデルによる自家消費型太陽光発電サービスの 提供を2022年2月から開始した。
新設された太陽光発電(PV)施設内のCVケーブルには,一般社団法人日本電線工業会のホームページ掲載の「自動計算ソフト」を参考にしてECSO設計が行われた。
(PVの自家消費システムにおけるECSO導入の初実績になる。)
東部滋賀物流センターの太陽光発電設備
パンフレット(日本語、英語)
ECSO設計の歩み
1995年6月 | IEC287-32-2 規格「Economic Optimization of Power Cable Size」制定。 |
2008年6月 | 電線工業会/JECTECが「導体サイズ適正化によるCO2排出量削減に向けての活動」により、日本銅センター賞を受賞。 |
2009年 | 導体サイズ適正化による通電ロス低減(省エネ)効果検証のため、電気設備学会・調査研究委員会(第1次)がスタート。(2年間) |
2010年 | 大手電線工場6社での取替え実証試験(10本)がスタート。(3年間) |
2010年5月 | 電線工業会/JECTECが開発した「経済性と環境を考慮した導体サイズ適正化理論」を電気設備学会誌(2010年5月号)に論文発表。 |
2010年 | 経済産業省の国際標準開発事業として、中立、使用者、生産者から構成される委員会(第1次)がスタート。(3年間) |
2011年 | ダブル配線化工事の施工性検討のため、電気設備学会・調査研究委員会(第2次)がスタート。(2年間) |
2012年11月 | IEC/TC20 東京総会にて、国際規格化の計画が承認。 |
2013年5月 | JCS 4521-1「電力ケーブル環境配慮電流計算」制定。 |
2013年 | 国際規格化と国内普及の推進のため、中立、使用者、生産者から構成される委員会(第2次)がスタート。 |
2014年9月 | JCS 4521-1 にEM-CET/F を追加し、規格番号をJCS 4521 として発行。 |
2014年9月 | 電線工業会が「導体サイズ適正化によるCO2排出量削減に向けての貢献」により、電気学会電力エネルギー部門研究・技術功労賞を受賞。 |
2015年1月 | 電線工業会ほかによる「省エネ・節電(ピーク電力低減)効果に関する研究成果」を電気設備学会誌(2015年1月号)に論文発表。 |
2015年3月 | 電線工業会が開発した「環境配慮導体サイズ選定(効果試算)ソフト」をホームページに公開。 |
2015年11月 | 環境配慮導体サイズ選定(効果試算)ソフトにEM-CETを追加。 |
2016年9月 | 内線規程(JEAC 8001)の本文および資料編にJCS 4521およびECSO設計の考え方が掲載。 |